ロコ、いつかまた

愛犬の死を家族全員で看取った。メスの黒い柴犬で、17歳だった。彼女の名前はロコと言った。ロコは私が小学六年生だった年の秋頃に家へやって来た。先代の犬であるゴールデンレトリバーが亡くなってから半年程が経っていたと記憶している。先代の犬はとても…

見たら終わり

私が今までに訪れたどの自社仏閣にも似た神社にいる。姿形もおぼろげな友人と一緒にいる。境内には二本の松の木があり、それを拝むことができるという。私たちは一本の松の木の裏側に回った。正面では神主たちが儀式を執り行っていたからだ。松の木の裏側で…

初秋、雑感

生まれてこの方不安定な日々しか過ごしたことがなく、他人よりも何よりも自分が最も信用ならない心持ちで労働その他、人生の義務というやつを必死にこなしている。「意外と生きられるぞ」と思う日もあるにはある。が、前提として「だから何?」という生存に…

『砂の女』を読んで

恐らく、主人公の仁木順平に自身の面影を見る人は少なくないだろう。妻があり、職があり、傍目にはそう悪くない人生を送っている男。しかし退屈で単調で、周りの人間の些細な嫉妬や野卑にうんざりする。とは言え今更異なるたつきの道を切り拓く覚悟もなく、…

いつか素敵な浴衣を買おう

小学生に上がったばかりの頃だったと思う。祖母が浴衣を買ってくれると言って、祖母と母と私の3人で船場センタービルに出かけた。低い天井の古ぼけた店をいくつか巡って、黒地に苺が天の川のごとく散りばめられている柄の浴衣を私は見つけた。黒いのも天の川…

毎日の終わりに考えていること

自分の言葉が年齢を重ねるにつれてこんなにも薄っぺらくなっていくということを、毎日強く強く実感している。世間一般には年を取った人の言葉が(本質的に優れているかどうかはともかくとして)重用され、若い人の言葉は軽んじられるものなのだろうが、私の…

さらばうつくしい八月

好きな季節と言えば断然夏で、暑さも大して苦にならなかった。 海で泳いだり山に泊まったりなんて活発的なことはあまりしないが、私は私で毎年の夏を楽しむ術を知っていた。例えば、空。雲一つない晴れ空は他の季節のそれよりも随分と高く見える。あんまり高…

世界で一番自分のことを信用できない

※こんな屑みたいな文章を書くのだって半月はかかりました。もう駄目です。 あなたにとって「自分の意思を表明する」というのは、どれくらい難しいことだろうか。私にとってこれは要望を通すための押しが強い/弱いという類の問題ではなく、「意思を表明した…

それでも私はまだ文字と言葉をこねくり回している

芥川龍之介の『河童』の中で、こういう台詞が登場する。 「元来画だの文芸だのは誰の目にも何を表はしてゐるかは兎に角ちやんとわかる筈ですから、この国では決して発売禁止や展覧禁止は行はれません。その代りにあるのが演奏禁止です。何しろ音楽と云ふもの…

人殺しの木偶がいる生活

以下、2019年8月1日のTumblr投稿より。 結局、昨年の誕生日から今まで一度も情緒不安定を発散していなかった。それすらも出来ないくらい情緒不安定だったとも言える。2019年も早いもので8月に入り、このブログの存在を俄かに思い出した。そして、2、3日前に…

嵐の中で情緒の安定を求めていた

以下、2018年8月23日のTumblr投稿より。 今日は処暑、もしくは台風の特異日。 その名の通り、私の住む町には台風が到来している。窓を叩く風雨があんまり烈しいので、建物全体が獣の様にわなないており、読書にすら集中できない。仕方がなく、ぼうっとする。…